『世界最高のジャズ』の著者でもある原田和典さんによるJAZZへの熱い想いを語ったコラム! |
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第39回 84歳を迎えた偉大なるハル・マキュージック大先生について、とっくりと語るぜ |
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今回はハル・マキュージック(マクシックと表記されることもある)について書く。 ![]() EAST COAST JAZZ VOL.7ム 情感タップリなのに、決してべたつかないプレイ。端正な音と美しいフレーズ。これみよがしのところがまったくない、さわやかなまでの地味さ。 わかった、ハル・マキュージックだ! 僕は会話の軌道を変えてもらい、マキュージックがいかに素敵でかけがえのないサックス奏者であるか、この作品がどんなに味わい深いかをとうとうと語った。 落ち着いて考えてみれば、この日、この喫茶店に行ったことも偶然。ハル・マキュージックがかかったことも偶然。「武道館公演に3人で行く」という大前提がなければ、確実に何も起こらなかった。 そう、すべてはPerfumeのおかげである。 ◇ ◇ ◇ 最近は80代でも元気なミュージシャンが多いが、マキュージックもそのひとりだ。とはいっても人前でジャズを演奏したのは1950年代を最後に殆どなく、現在はレッスン・プロのような生活と伝えられる。1924年6月1日、マサチューセッツ州Medford生まれ。父は農場を経営していたという。8歳のクリスマス・イヴに母親からクラリネットをプレゼントされ、9歳で学校のバンドに参加。15歳の頃にはボストン近郊でプロ活動を始めた(しかも自分のグループで)。譜面が読めて各種サックスもクラリネットもなんでもござれ、しかもアドリブができるマキュージックはたちまち売れっ子になり、40年代のほとんどをビッグ・バンドで過ごす。 ◇ ◇ ◇ 1)● ジュビリー盤『ハル・マキュージック・プレイズ、ベティ・セント・クレア・シングス』 1954 復刻盤LPを持っていたが、いま手元にない。マキュージックのプレイはクラリネットが強く印象に残った。ベティの歌は適度にドスが利いていてうまい。 2)● ベツレヘム盤『イースト・コースト・ジャズ』 1955 バリー・ガルブレイス(ギター)との名コンビがたっぷり楽しめる1枚。アドリブ重視ではなく、曲の構造がまず先にあり(譜面の量が多く)、その中に即興パートをちりばめながら、おだやかに静かに沸騰していく様式は、驚くほど現代NYジャズと近いのではないか、と僕は思う。ぜひともジェローム・サバーグ『ノース』、ビル・マケンリー『ロージズ』あたりを参照しながら聴いていただいたい。アレンジはマニー・アルバムが担当。 ![]() 3)20世紀のドローイング・ルーム 彼の実力からすれば遅すぎたぐらいのウィズ・ストリングス作品。アレンジは引き続きマニー・アルバム。演奏の質は高いのだが、クリフォード・ブラウンやチャーリー・パーカーの同工作のような俗っぽさに欠けるところが、個人的には物足りない。別に「煙が目にしみる」や「サマータイム」をやれ、とまではいわないが、ちょっと突っ張り気味なのではないか。 4)● RCA盤『ジャズ・ワークショップ』 1956 RCAのジャズ部門を代表する同名シリーズの1枚(ほかにジョージ・ラッセル、マニー・アルバム、ビリー・バイヤーズなどがあり)。アレンジャーのひとりとしてギル・エヴァンスが名を連ね、のちにプレスティッジ盤『ギル・エヴァンス・プラス・テン』で再演する「ジャンバングル」をとりあげている。マキュージックの真綿のような音色と、ギルの幻想的なアレンジの相性は最高! ![]() 5)ジャズ・アット・ジ・アカデミー バリー・ガルブレイスとのコンビをフィーチャーした作品だが、ベツレヘム盤とは異なりジョージ・ラッセルのアレンジも採用されている。ところでこの作品、ほぼリアルタイムで日本グラモフォンから国内盤が出ている。昭和30年代初頭の日本で、こんなハイブラウなレコードを聴いていたひとはどのくらいいたのか? 6)● コーラル盤『クインテット』 1956 アート・ファーマー(トランペット)、エディ・コスタ(ピアノ)が参加。いわゆるハード・バップ的な楽器構成ではあるが、1曲あたりの演奏時間は短く、きっちりアレンジされている。とはいっても同時期の西海岸ジャズ(ビル・ホルマンとか)のような息苦しさがないのはさすが。生き馬の目を抜くニューヨークではホンモノしか通用しないのだ。 ![]() 7)トリプル・エクスポージャー もっともアドリブに比重がおかれた1枚といえるだろう。ベースがポール・チェンバース、ドラムスがチャーリー・パーシップというのも異色だ。白人ジャズに抵抗を感じる方は、このあたりからマキュージックを攻めてはいかがか。タイトルは彼がアルト・サックス、テナー・サックス、クラリネットの3楽器を演奏していることにちなむ。 ![]() 8)クロス・セクション マキュージックは1945年にチャーリー・パーカー(アルト・サックス)と知り合った。音色の美しさを褒めてくれたことが忘れられないという。53年には一緒にレコーディングもしている。そのパーカーの死から3年を経て録音された本作では、代表曲「ナウズ・ザ・タイム」をカヴァー、パーカーのソロをサックス・アンサンブルで(ハーモニーをつけて)演奏している。が、それよりもなによりも、このアルバムで異様なのは若きビル・エヴァンスのピアノ。この尖りは何だ。明らかにマキュージックが刺激され、しゃかりきになって吹いていることがわかる。 以上8枚と、ジョージ・ラッセル『ジャズ・ワークショップ』(RCA)、オムニバス盤『ブランダイズ・ジャズ・フェスティヴァル』(コロンビア)あたりが僕にとって最も鮮烈なハル・マキュージックの姿である。 |
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このコーナーの単行本『原田和典のJAZZ徒然草 地の巻』(プリズム)が遂に10月30日に発売されます。連載20回目までをリマスター&リミックスのうえ収録し、さらに新原稿を全体比の40%ほど加えたリリースです。ウェブ上とは一味も二味も異なる「徒然草」が味わえます。定価も1,050円とお手ごろです。恍惚の表情を浮かべる「もちねこ」の表紙をみたら、ぜひお求めくださいませ! 次回、続報をお知らせいたします。
ジャズ・サックスのアルバム550点以上をコメントつきで掲載した『THE DIG PRESENTS DISC GUIDE JAZZ SAX』(シンコーミュージック)も好評発売中です。むろんハル・マキュージックもフィーチャーされています。ドクロの帯のかかった本を見つけたら、ぜひレジに運んでいただければと思います。 猫が登場するレコードやCDのジャケット(いわゆる“猫ジャケ”)約200作をオールカラーで紹介した『猫ジャケ 素晴らしき"ネコード"の世界: レコードコレクターズ増刊』(ミュージックマガジン)も好評です。作品解説はすべて僕が担当しております。今年の秋は猫とドクロで! 原田和典(はらだ かずのり) 1970年北海道生まれ。ジャズ誌編集長を経て、2005年夏よりソロ活動開始。ジャズ、ブルース、ファンク、ロック、アイドル、突然段ボール、肉球、なんでも好き。 |