『世界最高のジャズ』の著者でもある原田和典さんによるJAZZへの熱い想いを語ったコラム! |
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第33回 ジョージ・ブレイスの改良型Braithophoneが深夜のアヴェニューA に鳴り響いたぜ |
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すっかり暖かくなってきた、いや、暑いぐらいの今日この頃だ。といってもこれは東京都内のアパートの狭い一部屋で原稿を書いている僕のまわりの気候についていっているのであり、長い冬を終えた北海道方面は花が咲き乱れ快適で過ごしやすいに違いないし、南下していけば(ぼくは広島以南に行ったことはないが)、それはそれはダイナミックに太陽が照り付けていることだろう。 L-R ルイス・ボニーリャ、ヴィンセント・チャンドラー おもむろに登場したのはゼヴィア・デイヴィス(ピアノ)、ヴィセンテ・アーチャー(ベース)、クインシー・デイヴィス(ドラムス)の3人だ。演目は「モーニン」。まさか21世紀のNYでこの曲を生で聴けるとは思わなかった。続いて、ルイス・ボニーリャとヴィンセント・チャンドラーが、それぞれの愛器を抱えて登場。トロンボーン・バトルが始まった。僕がルイスを以前に見たのはマッコイ・タイナーのラテン・ジャズ・オールスターズだったと記憶するが、ヴィンセントに関してはまったく初体験だった。帰国して調べると彼はデトロイト出身、ケン(ケニー)・コックスのバンドなどで演奏してきたとのこと。同じくデトロイターであるジェラルド・クリーヴァーとの交友もあるかもしれない。 ドリーン・ケッチンズ ローレンス・ケッチンズ ユニヴァーシティ・オブ・ザ・ ストリートに至る階段 もうひとつ、とっておきの“ドネイション制”ライヴ・スポット(現地のファンは、“ロフト”と呼ぶ)がある。「ユニヴァーシティ・オブ・ザ・ストリート」(130 E.7th street,corner of Avenue A)だ。看板も何も出ていないので探しにくいのが難点だが、オンボロの建物が並ぶ町並みの中で、ひときわ壁に入ったヒビが目立つ、いまにも崩れそうな縦長ビルの2階、しかも階上に空手道場がある、と覚えておけば、迷う確率は少なくなるだろう。69年にアルト・サックス奏者のムハマッド・サラフディーンがオープンし、彼の死後はジョージ・ブレイスが中心となって運営している。トミー・タレンティン(トランペット)、クラレンス・C・シャープ(アルト・サックス)、ジミー・ヴァス(同)、ジミー・ラヴレイス(ドラムス)、デニス・チャールズ(同)、マーヴィン・スミス(同)。スミッティ・スミスとは別人)なども、ここの常連だったそうだ。僕はブレイスが主宰する深夜セッションに行った。そして彼からいくつか話をきいた。 ジョージ・ブレイス 2) Braithophoneの朝顔部分 3) 日本ではブレイスホーンというカナ書きで親しまれている彼の愛器のスペルは、正しくはBraithophone(ブレイソフォン)。Phone of Braithという意味であるとか。ストレート・アルト・サックスとソプラノ・サックスを溶接して1976年に完成し、同じ楽器を現在まで改良しつつ使っている。ハンダ付けが上達してから、「すっかり音もれが少なくなり、よりストロングな響きが出るようになった」そうだ。 4) 名盤『ラフィング・ソウル』のジャケット写真はまだ肌寒いセントラル・パークで撮影された。あのポーズは自分で考えたらしい。それは彼のホームページ(http://www.georgebraith.com/)に掲載されている写真を見てもわかる。 5) 近年は“バップトロニクス”(Boptronics)なる新形態にも取り組んでいる。「それは何ですか」と質問すると、「楽器であり音楽様式でもあり一概には説明できない」とのこと。CDを購入し、聴いてみたら、 ジョージ・ブレイス 6) ブルーノートやプレスティッジにソウル・ジャズ的なアルバムを残しているが、基本的にはビ・バップ命。 しょっぱなの「コンファメーション」から、Braithophoneが炸裂する。この楽器から紡ぎだされる、合っているのか合っていないのかわからないような2つの音が、こちらの神経を心地よく麻痺する。「チェロキー」、「オール・ザ・シングス・ユー・アー」、そしてブルース・コード。ブレイス流ビ・バップはどこかほんわかとして、なんともいえない“おかしみ”がある。そこも彼のたまらない魅力だ。「日本に行ったのは1994年だったかな。またぜひ日本で演奏したいね」と語ってくれたブレイス。バップトロニクスも含めた彼の最新境地を我が国で体感できる時を心待ちにしたい。 |
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原田和典(はらだ かずのり) 1970年北海道生まれ。ジャズ誌編集長を経て、2005年夏よりソロ活動開始。ジャズ、ブルース、ファンク、ロック、アイドル、突然段ボール、肉球、なんでも好き。 |