『世界最高のジャズ』の著者でもある原田和典さんによるJAZZへの熱い想いを語ったコラム! |
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第28回 疾風のように2007年がマッハの速度で駆け抜けていくぜ |
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(A面) もう2007年が終わろうとしている。今年も本当に早かった。人間、年をとるとだんだん歳月の流れが早く感じられるようになっていくらしいが、確かにその通りだなあと痛感する只今のわたくしである。 ![]() アヴィシャイ・コーエン(Tp) ![]() トム・レイニー(Dr) ![]() タイシャン・ソーリー(Dr) アルト・サックス:デヴィッド・ビニー、ミゲル・セノーン、スティーヴ・リーマン、ルドレッシュ・マタンサッパ テナー・サックス:トニー・マラビー、クリス・ポッター、ドニー・マキャズリン、ビル・マッケンリー、デヴィッド・S・ウェア クラリネット:クリス・スピード、ベン・ゴールドバーグ ピアノ:ジェイソン・モラン、ロバート・グラスパー、マイラ・メルフォード、マシュー・シップ、ヴィジェイ・アイヤー、クレイグ・テイボーン ギター:ジョエル・ハリソン、ブラッド・シェピック、ウェイン・クランツ、ネルズ・クライン ベース:ベン・アリソン、クリス・ライトキャップ、ツトム・タケイシ、オマー・アヴィタル、マリオ・パヴォーン、マーク・アライアス ドラムス:ジェラルド・クリーヴァー、ジム・ブラック、ジョン・ホーレンベック、ジョージ・シュラー、ジェフ・バラード、サトシ・タケイシ、キース・カーロック、マーカス・ギルモア、トム・レイニー、マイク・サリン、タイシャン・ソーリー 、ナシート・ウェイツ オーケストラ・リーダー:マリア・シュナイダー、ジェイソン・リンドナー ユニット:ザ・バッド・プラス、グラウンドトゥルーサー、フィールドワーク ああ、名前を列挙するだけでクラクラしてきた。あまりにも魅力的な面々ではないか。別格としてヘンリー・スレッジル(と書くのだそうだ)やオーネット・コールマンやティム・バーンや菊地雅章が常に入る。ポール・モチアンも絶対に忘れてはならない。今のNYジャズのハートビートは間違いなくモチアンである。ということはつまり彼は現代ジャズの世界最高峰地点に立っているわけだ。 それにしてもNYで演奏する連中の異様なまでの気迫、ぶっ倒れるのではないかと思えるほどのテンションの高さ、自らの限界を打ち破ろうとしてやまない気合の入れ方は一体なんなのだろう。トニー・マラビーはこんなことを言った。“ニューヨークが好きだ。あそこで演奏すると、いつもケツを蹴られているような気分になる。これではいけない、もっと前進しなければ、といつも思わされるんだ”。 ◇ ◇ ◇ (B面) ![]() デイヴ・ダグラス&ドニー・マキャズリン 2007年のリリース状況も活発だった。新譜・旧譜どちらとも、優れものが溢れに溢れ、取捨選択に大いに迷った。最近とくに目立つのが、 ![]() ティム・バーン アーティストシェアからもますます目が離せなくなってきた。現代ジャズを探求するリスナーには釈迦に説法かと思うが、このレーベルの音源はダウンロードするかCDを通販で購入するのが原則なので、アメリカ本国のレコード店で市販されることはない。それでもマリア・シュナイダーの『コンサート・イン・ザ・ガーデン』はグラミー賞を獲得してしまった。もちろん内容が素晴らしく良いということもあるだろうが、ようするに店頭に並ばない作品がグラミーをとる時代が来たのだ。 幸いにしてディスクユニオンの店頭にはアーティストシェアの作品が並んでいる。わざわざ海外のホームページを開き、英語の使用規約を読んで、住所やクレジットカード番号を入力する手間も省ける。日本円をレジに出せば、そのままCDを持ち帰って家で聴ける。いまだにマリアの音を聴いていないひとがいたら、それはジャズ・ファンとしてあまりにも気の毒だ。彼女は新人ではない。ギル・エヴァンスのアシスタントをした経験も持つベテランである。長いキャリアがいま、たまらなく新鮮かつ芳しい形で開花しているのだ。現代ビッグ・バンド・ジャズの空気を、全身で浴びていただきたいものである。 発掘ものではチャールズ・ミンガスの『コーネル1964』(ブルーノート)が、あまりにも圧倒的だった。エリック・ドルフィーも例によって最高だし、ミンガスのベースの音も超の字がつくほど極上に録音されている。ファースト・セットをギラギラのドシャメシャ状態で終えた後、“ちょっと休憩して、すぐ演奏を再開します。帰らないでくださいね”と観客に呼びかけるミンガスがかわいいではないか。 また、シリーズものではルディ・ヴァン・ゲルダーが手がけたリマスター再発(プレスティッジ、ブルーノート)、オリン・キープニューズが自らのプロデュース作品をCD化する“キープニューズ・コレクション”が充実していた。後者から出し直されたジョージ・ラッセル『エズセティックス』には、オリジナル・フォーマット未収録の「Kige's Tune」(と表記されているが、僕の聴いたところでは「Pan-Daddy」)という曲が2テイク収録されている。もちろんドルフィーの出番もたっぷりで、こんなリキの入ったパフォーマンスが46年間も埋もれていたなんて、なんて罪作りなのか。セロニアス・モンクの『オーケストラ・アット・タウン・ホール』にいたっては、もはやLPとは別物といっていい構成。LPではオープニング・テーマとして50秒ほどしか収められていなかった「セロニアス」がフル・ヴァージョンに差し換えられ、カルテットで演奏された曲も可能な限り追加されたため、収録時間はLPフォーマットの約2倍となっている。もっともこれが出たためにLPフォーマットのままCD化されたときのヴァージョンが廃盤になるのであれば、それはそれで淋しいが……。 来年度も新譜、発掘、再発に嬉しい悲鳴を上げることを期待しつつ、この拙稿をしめくくる。 どうか皆様、良いお年を! |
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ぼくの最新刊『新・コルトレーンを聴け!』(ゴマ文庫)が08年1月初旬に発売されます。ソロ・デビュー作『コルトレーンを聴け!』(ロコモーション・パブリッシング)の増補改訂版ですが、あっと驚く新発見アイテムを多数追加、既発表の文章もリマスターが施されています。価格もお手ごろなので、御購入いただけるととても嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。また“中山康樹&ジャズ・ストリート”の一員として、07年12月発売の『読んでから聴け!ジャズ100名盤』(朝日新書)にも顔を出しております。『清志郎を聴こうぜ!』(主婦と生活社)も好評発売中です。どうか御愛顧をお願い申し上げます。
原田和典(はらだ かずのり) 1970年北海道生まれ。ジャズ誌編集長を経て、2005年夏よりソロ活動開始。ジャズ、ブルース、ファンク、ロック、アイドル、突然段ボール、肉球、なんでも好き。 |