『世界最高のジャズ』の著者でもある原田和典さんによるJAZZへの熱い想いを語ったコラム! |
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第19回 バリー・アルトシュル、バディ・テリー、ペリー・ロビンソン… あの名手たちがダウンタウンで息を吹き返したぜ |
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日本はどうしてこんなにニューヨークから遠いのだろう。教室の「席替え」みたいに、定期的に各国の位置が入れ替われば
、もっと世界はエキサイティングになるはずなのに。きょうも俺がフトンをかぶって寝ている間に、何千マイルも向こうでは
アヴィシャイ・コーエンや
トニー・マラビーや
ジェラルド・クリーヴァーや
ティム・バーンが“聴いたことのないサウンド”
を撒き散らしているかと思うと、聴覚皮質だけでもアチラに常備しておけたらとも思う。1日24時間とはいわない、
せめてイースタン・スタンダード・タイムの午後8時から深夜2時ぐらいまででいい、マンハッタンがそのまま僕の家の
横っちょに移動してきてくれないものかとも夢想する。そうしたら、「ザ・ストーン」の
スティーヴ・コールマン月間
(コールマンが毎日、日替わりで演奏するという、驚きの企画。各セット10ドル、チップ&ミニマムなし!)に通いつめ、
脳細胞をすべてM-BASE菌で埋め尽くすことができるというものを。 ![]() バディ・テリー やはり久々にニューヨークの水を吸い、目が覚めるような活動を続けているのが ペリー・ロビンソンだ。06年6月には バートン・グリーンとの デュオ・ライヴがバワリー地区のカフェであり、僕も喜び勇んで出かけたのだが、ドアに“Cancelled”という紙が貼られていて、とても 残念だった。それだけに生ロビンソンを見たいという気持ちはマキシマムに高まっていたのである。ペリー・ロビンソンについて簡単に 説明すると、クラリネットをフリー・ジャズに導入したパイオニアということになるのだろうか。 チャーリー・ヘイデン 『リベレイション・ミュージック・オーケストラ』 、カーラ・ブレイ『エスカレーター・オーヴァー・ザ・ヒル』などに参加し、ギュンター・ハンペルのユニット でも長く活動した。リーダー作も、「農夫アルファルファ」があまりにも有名な62年のサヴォイ盤 『ファンク・ダンプリング』を始め、それなりにある。そのロビンソンが、ディー・ポップ(ドラムス)の注目すべき“Radio I-Ching”プロジェクトに加わって「ザ・ストーン」に出たのだ。 元テレヴィジョンの トム・ヴァーレインも出るという告知だったので、 僕はそれも楽しみにしていたのだが、数日前に彼の出演はとりやめになった。しかしロビンソンの熱演がヴァーレインの不在をかき消した。 ところで、先にも書いた通り「ストーン」には冷暖房がない。つまり冬は極度に寒く、夏は暑い。だがロビンソンは素肌に、 釣り人がよく着るようなチョッキ(ポケットがいっぱいついている。しかも緑色)をはおっただけの姿で演奏する。 クラリネットを持つ腕が上下すると白くなったワキ毛が見えるのも、なんだかセクシーではないか。 艶のある太い音、ロココ状のフレーズ。こういうクラリネットなら、いつまでも聴いていたいと、つい遠い目をしてしまう私だ。 地響きを巻き起こすウィリアム・パーカー のベース、琵琶、ラップ・スティール、ソリッド・タイプのエレクトリック・ギターを使い分ける ダン・フィオリーノのプレイも見事だった。 ◇ ◇ ◇ この夜、僕はアヴェニューCから7番街まで移動した。「ヴィレッジ・ヴァンガード」(178 7th Ave South)で
“ポール・モチアン・トリオ2000+2”を
見るためだ。モチアンはいう。“ペリー・ロビンソン、奴はすごいマジシャンだよ”。“彼は手品が趣味なんですか?”と
僕がたずねると、“いや、そうじゃないんだ。ペリーは突然、私たちの前からいなくなって、数十年ぶりに姿を現した。しかも前以上に
素晴らしい音楽家としてね。こんなすごいマジックがあるかい?”。モチアンは
アナット・フォート(ピアノ)のECM盤
『ロング・ストーリー』でロビンソンと共演したばかりなのだ。
“トリオ2000+2”はモチアン(ドラムス)、菊地雅章
(ピアノ)、クリス・ポッター(テナー・サックス)、
ラリー・グレナディア(ベース)、
告知ではここにグレッグ・オズビーが加わって
構成される予定だったのだが、替わりにマット・マネリが
アンプリファイド・ヴィオラを弾いた。演奏はもちろん、いうことなし。モチアンの睨みがすみずみまで行き届いた音に接すると、
心が浄化されていくようだ。“ブチ切れ王子”ポッターも思索的に、ピアニッシモ〜ピアノぐらいの音で吹く。いつだったか「55バー」で
アダム・ロジャース(ギター)、
ジョー・マーティン(ベース)、
ネイト・スミス(ドラムス)とのユニットで
ポッターを見たときは、楽器が破裂するのではないかと思えるほどの大ブチ切れ大会だった。ポッターにとって、モチアン・バンドで演奏するとき
の緊張感は他のバンドでは味わいえないものだろう。一音たりとも過剰なものを許さないのが蛸入道モチアンなのだ。 ![]() マイケル・ブレイク・トリオ ![]() ワンダ・ジャクソン(左) ![]() スラム・アレン |
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僕の初めてのジャズ以外の本、『清志郎を聴こうぜ!』(主婦と生活社)が12月22日に発売されました。
これまでにもいろんなところで触れてきましたが、忌野清志郎は僕にとって最大のヒーローで、1980年にRCサクセションの
「トランジスタ・ラジオ」を聴いて感動したことで今の自分が決定付けられたといっても過言ではありません。
約1年半かけて、どうにかこうにか、清志郎のほとんどのナンバー(複数のテイクがあるものは全ヴァージョン掲載)
について書いたものが、ようやくまとまりました。700ページのドシドシ分厚い本です。ジャズ書ではありませんが、
数あるジャズ関連のサイトの中から、わざわざ僕のコーナーを訪れてくれているあなたのような柔軟で冒険心のある人であれば、
きっと楽しく読んでいただけるであろうことは保証いたします。『世界最高のジャズ』(光文社新書)も好評発売中です。
どちらも、どうぞよろしくおねがいいたします。
原田和典(はらだ かずのり) 1970年北海道生まれ。ジャズ誌編集長を経て、2005年夏よりソロ活動開始。ジャズ、ブルース、ファンク、ロック、アイドル、突然段ボール、肉球、なんでも好き。 |