『世界最高のジャズ』の著者でもある原田和典さんによるJAZZへの熱い想いを語ったコラム! |
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第15回 シカゴには人間味たっぷりの男気ジャズが満ち溢れているぜ/div> |
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シカゴのジャズときいて、あなたは何を思い浮かべるだろう。 ![]() 左からスティーヴ・ベリー、コーリー・ウィルクス、 アリー・ブラウン ![]() ウィリー・ピケンズ トロンボーン:スティーヴ・ベリー サックス:フランツ・ジャクソン、ヴォン・フリーマン、フレッド・アンダーソン、アリー・ブラウン、エドワード・ウィルカーソンJr.、アーネスト・ドーキンズ、 フランク・カタラーノ、ケン・ヴァンダーマーク ピアノ:ウィリー・ピケンズ、ケン・チェイニー(元ヤング・ホルト・アンリミテッド)、カーク・ブラウン ギター:ジェフ・パーカー ベース:ハリソン・バンクヘッド、タツ・アオキ(青木達幸)、ジョシュ・エイブラムス ドラムス:ロバート・シャイ(元スリー・ソウルズ)、デイナ・ブラウン、アブリエール・ラー ![]() ケン・チェイニー その無尽蔵な街を、僕は10年ぶりに訪れた。9月の始めだったし天気も良かったので凍えることはなかったが、それでも夜は寒さで鼻水が出た。風は容赦なく吹き付ける。だが空は澄んでいて星がきらめく。それがウィンディ・シティ、シカゴなのだ。 シカゴの“地ジャズ”といえば第一にあがるのがヴォン・フリーマンの名前だ。来年で85歳になる彼はチャーリー・パーカーと共演したり、最初期のサン・ラ・アーケストラに所属したキャリアを持つ。どういうわけかレコーディングに恵まれず、ローランド・カークの尽力でファースト・アルバム『ドゥーイン・イット・ライト・ナウ』(アトランティック)が制作されたときにはもう50歳になっていた。 ![]() ヴォン・フリーマン 90年代の初めにコールマンは僕にこういった。“世界で最も偉大で、過小評価されているサックス奏者はヴォン・フリーマンである”と。“息子のチコをどう思う?”と問いかけると、“過大評価だね”といって親指を下げたことを覚えている。ヴォンがシカゴで、いかに若手を鍛え、彼らの支えとなってきたかは悠雅彦氏の名著「ぼくのジャズ・アメリカ」に詳しいが、僕が「グリーン・ミル」(4802N. Broadway Ave.)で見たときも、ヴォンは鬼軍曹となって、おそらくはひ孫のように年の離れたミュージシャンをあおり、ハッパをかけ、テナー・サックスを吹きまくった。ヴォンのプレイははっきりいって、かなりヨレている。しかし、彼が吹くと、場が締まるのだ。そして乗ってくると、我を忘れたように10分も15分もブロウする。若手サイドメンが楽器を奏でながら、ヴォンを見て口をあんぐりしている。ボスの風格にすっかり酔わされてしまった。 ![]() フレッド・アンダーソン ![]() ジョシュ・エイブラムス ![]() ハミッド・ドレイク ![]() モリース・ブラウン ヴォンに続く世代の“地ジャズ”といえばフレッド・アンダーソンも外せない。彼は今年で喜寿を迎える。
自身の店「ヴェルヴェット・ラウンジ」(67E Cermak Rd)はこの夏に改装を終え、再オープンしたばかり。入り口で入場料を集めている小柄な猫背のおじいさんが、ひとたびステージにあがり、テナー・サックスを吹くやいなや、阿修羅と化すのだから本当に痛快である。フレッドはマイクを使わず、すべて生音で演奏する。背後ではジョシュ・エイブラムスがシャカリキになってベースをかき鳴らし、ハミッド・ドレイクが蛸のように手足を動かして多層的なリズムを醸し出す。それなのに、フレッドのサックスは一音一音がくっきりと、背後の音量が高まれば高まるほど自身の音量もあげて、灼熱のインプロヴィゼーションを繰り広げるのだ。
楽器を右腿の横に付け、ひざを折り曲げながら演奏するフレッド。その音の迫力、泉のように尽きないアドリブのアイデアに心底、圧倒された。途中、ニューオリンズ出身の若手トランペッター、モリース・ブラウンが飛び入りしフレッドと激しく応酬したのも火に油を注いだ(彼はフレッドのデルマーク盤『バック・アット・ザ・ヴェルヴェット・ラウンジ』にも参加していた)。 ![]() ヴェルヴェット・ラウンジ ![]() AACMオーケストラ (指揮ムワタ・ボウデン) ![]() ジャズ・ショウケース いろんな楽器をやるアイラだが、僕が見た日はトランペット、テナー・サックス、ソプラノ・サックスを吹いた。 演奏曲は「ダンシング・イン・ザ・ダーク」、「ユー・ステップト・アウト・オブ・ア・ドリーム」など。「ジャズ・ショウケース」はステージの背後にチャーリー・パーカーの大きなパネルが飾られ、客席の右側にはジョン・コルトレーンの大きな肖像が貼り付けてある、わりと大き目の店だ。オーナーの好みを反映し、音楽は基本的にビ・バップ〜ハード・バップに統一されている。75歳のアイラが演奏するスタンダードには、モダン・ジャズを同時代に体験した男だけに可能な、まさしく“ほんまもん”の味わいがあふれていた。 |
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『世界最高のジャズ』(光文社新書)、お楽しみいただいておりますでしょうか。ジャズという素晴らしい音楽を、ひとりでも多くのひとに楽しんでいただきたいと願いながら、400ページあまりをしたためました。これほど分厚い書物は新書では稀です。どうか、この重量感たっぷりの本を、御愛顧いただけますようお願い申し上げます。70年代以降に生まれた世代へ向けたジャズ本は、これまでなかったのではないでしょうか。学校やカルチャーセンターの教材としても御活用していただけると望外の喜びです。
原田和典(はらだ かずのり) 1970年北海道生まれ。ジャズ誌編集長を経て、2005年夏よりソロ活動開始。ジャズ、ブルース、ファンク、ロック、アイドル、突然段ボール、肉球、なんでも好き。 |